派遣社員として働いていると、派遣先企業側から「直接雇用で働かないか」と声をかけられることがあります。
直接雇用になれば収入や待遇の向上が期待できるため、「魅力的な話だ」と感じる方は少なくないでしょう。
しかしそこで気になるのが、いわゆる“引き抜き”とよばれるこの提案に応じることに、法律上の問題はないのか? という点です。
そこで本記事では引き抜きが違法となるケースや、直接雇用で働くための方法を解説します。
目次
派遣先企業による引き抜きは違法なのか?
派遣先企業が派遣社員を直接雇用することは、派遣期間が満了したあとであれば違法ではありません。
これは、労働者派遣法の趣旨として「契約満了後は、派遣社員の職業選択の自由が保障されるべき」と考えられているためです。
こうした考えのもと同法第33条では、“派遣会社は、派遣先企業が契約満了後に派遣社員を雇用することを禁じてはならない”と定められています。
派遣会社による制限がない以上、派遣期間満了後であれば、派遣先企業への転職に法的な問題はないのです。
参照元:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第三十三条」
派遣先企業が引き抜きを行う理由
そもそもなぜ、派遣先企業は派遣社員の引き抜きを行うのでしょうか。
その背景には、主に次の3つの理由があります。
【派遣先企業が引き抜きを行う理由】
- 理由①採用コストを削減できるから
- 理由②即戦力となる人材を確保できるから
- 理由③派遣会社に支払う派遣料金がなくなるから
理由①採用コストを削減できるから
派遣先企業が引き抜きを行う理由の一つに、採用コストを削減できることが挙げられます。
人材を確保するには、転職サイトや求人誌への掲載料、また採用イベントに参加する場合はその参加費など、相応のコストが伴います。
その点、有望な派遣社員の引き抜きを行えば、募集にかかるコストを削減できるだけでなく、教育コストの抑制を図ることも可能です。
経費面でのメリットが大きいことから、採用コストを抑える目的で派遣社員を直接雇用する企業は少なくありません。
理由②即戦力となる人材を確保できるから
派遣先企業は、即戦力として活躍できる人材を確保するために、引き抜きを行うこともあります。
通常の採用では、書類や面接だけで適性を判断しなければならないため、企業側が求める人物像と採用者とのあいだでミスマッチが起こるケースも珍しくありません。
その結果として、入社後に期待した成果が得られないこともあるでしょう。
こうしたなか、実際の働きぶりやスキル、適性をあらかじめ把握したうえで社員を迎え入れられるのは、派遣先企業にとって大きな利点といえます。
引き抜きによって自社で実務経験のある人材を採用できれば、ミスマッチのリスクを抑えつつ、入社直後から戦力として活躍してもらうことが可能となるのです。
理由③派遣会社に支払う派遣料金がなくなるから
派遣社員を引き抜くことができれば、派遣先企業は“派遣料金”を支払わずに済みます。
派遣料金とは、派遣社員を確保するにあたり、派遣先企業が派遣会社に対して支払わなければならない料金のことです。
大まかな内訳としては、約7割が派遣社員への給与、残りの約3割が派遣会社の人件費や営業利益となっています。
派遣社員を直接雇用すれば、この約3割にあたる料金を削減できるため、派遣先企業は引き抜きを検討するというわけです。
派遣先企業の引き抜きを受けるメリット
派遣先企業が引き抜きを行う理由を押さえたところで、ここからは、派遣社員が直接雇用の提案を受け入れたときのメリットを見ていきましょう。
【派遣先企業の引き抜きを受けるメリット】
- メリット①雇用が安定する
- メリット②収入が安定する
- メリット③待遇が良くなる可能性がある
- メリット④キャリアアップの機会を得られる
メリット①雇用が安定する
派遣先企業からの引き抜きを受けるメリットとしてまず挙げられるのは、雇用の安定化が図れることです。
派遣社員の派遣期間は、一般的に3~6か月程度で、同じ派遣先企業で働ける期間は最長3年と定められています。
こうした現状に対し、「契約を更新してもらえなかったらどうしよう……」と不安になる方もいらっしゃるかもしれません。
その点、正社員として派遣先企業と直接雇用契約を結べば、期間の定めがない無期雇用となるため腰を据えて働けます。
メリット②収入が安定する
収入の安定が見込める点も、派遣先企業の引き抜きを受けるメリットの一つです。
派遣社員は、派遣先企業の業務内容や給与体系に応じて給与が決まるため、勤務先が変わるたびに収入も変動します。
一方、直接雇用の場合は、勤務先が変わらずに一定の給与体系のもとで働けるので、安定した収入を得られます。
さらに企業によっては、ボーナスや福利厚生、各種手当などによる十分なサポートも受けられるでしょう。
収入が安定すれば日々の生活設計が立てやすくなり、精神的にも安心して仕事に取り組むことができます。
メリット③待遇が良くなる可能性がある
派遣先企業からの引き抜きを受けて正社員になると、給与をはじめ、業務範囲や任されるポジションなどの条件が向上する可能性もあります。
派遣先企業が直接雇用を提案するのは、「即戦力として活躍してほしい」という期待の表れです。
その期待を反映し、給与や業務内容、役職などで好条件を提示してくれるでしょう。
こうした待遇の向上は、派遣社員として培った経験や能力が評価されている証であり、引き抜きを受ける大きなメリットといえます。
メリット④キャリアアップの機会を得られる
自分の経験やスキルを活かしてキャリアアップの機会を得られることも、引き抜きの申し出に応じるメリットとして挙げられます。
派遣社員は、基本的に契約で定められた業務しか担当できず、その範囲を超える業務に関わる機会はほとんどありません。
しかし、派遣先企業で正社員として勤務すれば、責任ある役職や新しいプロジェクトに挑戦できるチャンスが広がるため、将来的なキャリアアップが期待できます。
さらに、企業によっては研修制度や資格取得支援制度があり、活用することでスキルを磨けます。
派遣先企業の引き抜きを受けるデメリット
ここまでご覧いただいた通り、派遣先企業からの提案を受けて直接雇用として働くことには、さまざまなメリットがあります。
一方で、承諾する前に知っておきたいデメリットもいくつか存在します。
以下の4つのデメリットを押さえ、自分らしい働き方を実現しましょう。
【派遣先企業の引き抜きを受けるデメリット】
- デメリット①柔軟な働き方が難しくなる
- デメリット②仕事の責任が重くなる
- デメリット③残業に対応する必要がある
- デメリット④人間関係に悩む可能性がある
デメリット①柔軟な働き方が難しくなる
柔軟な働き方に魅力を感じて派遣社員を選んでいる方にとっては、直接雇用への切り替えがデメリットになることがあります。
派遣社員として働く場合、派遣期間や勤務時間、残業の有無などを、ある程度自分の希望に合わせて選べます。
たとえば、子どもが小さいあいだは時短勤務にしたり、収入を増やしたい時期は残業を増やしたりと、その時々に応じて柔軟に働くことが可能です。
一方で派遣先企業からの引き抜きに応じて直接雇用を選ぶと、こうした自由度は下がるでしょう。
雇用の安定が見込める反面、勤務時間や業務量は企業の規定に従う必要があり、自分の都合だけで調整することは難しくなってしまいます。
デメリット②仕事の責任が重くなる
派遣先企業から引き抜かれて直接雇用になると、派遣社員として働いていたときと比べて、仕事の責任が大きくなります。
直接雇用の正社員になると、派遣社員のように決められた業務を行うだけでなく、自ら考え、判断しながら仕事を進めていく必要があります。
これまで派遣会社や派遣先企業が担っていた責任を直接負う立場になるため、その状況に、精神的な負担やプレッシャーを感じる方も少なくありません。
責任ある仕事を任されることは、やりがいや成長につながる一方で、派遣社員のときよりもストレスを感じやすくなる点はデメリットといえます。
デメリット③残業に対応する必要がある
残業や休日出勤の依頼に応じなければならなくなる点も、派遣先企業の引き抜きを受けるデメリットの一つです。
直接雇用では多くの場合、就業規則や雇用契約書で、“残業・休日出勤あり”と定められています。
こうした規定があると、会社から時間外労働の指示があったときに簡単には断れません。
働き方改革が進んでいるとはいえ、業務量や時期によっては時間外労働が発生する可能性があります。
法的に認められた範囲内での残業や休日出勤であれば、基本的には会社の指示に従う必要があり、そのことを念頭に置いておきましょう。
デメリット④人間関係に悩む可能性がある
派遣先企業に直接雇用されると、これまで意識せずに済んでいた人間関係に悩む可能性もあります。
これは、派遣社員として一定の距離感を保って働いていた頃とは異なり、一社員として職場の人間と深く関わっていくことになるためです。
人間関係を円滑に築くには、社内の人付き合いやチーム内での立ち位置に配慮しながら、職場の環境に適応することが求められます。
派遣社員が引き抜き以外で正社員になる方法はある?
ここまでの内容を踏まえたうえで、「派遣社員から正社員になりたい!」とお思いになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて本項では、派遣社員が引き抜き以外で正社員になる方法、また正社員のように働ける方法を紹介します。
方法①紹介予定派遣を選ぶ
紹介予定派遣とは、将来的に派遣先企業の正社員または契約社員として、直接雇用されることを前提とする働き方です。
紹介予定派遣の社員は、まず派遣会社と雇用契約を結び、最長6か月間派遣先企業で勤務します。
期間終了後、派遣社員と派遣先企業の双方が合意すれば、直接雇用に切り替わる仕組みです。
ただし紹介予定派遣では、通常の派遣契約とは異なり、就業前に派遣先企業による書類選考や面接が実施されるケースがあります。
また職種を問わず、派遣期間の延長や契約更新ができないのも特徴です。
そのため紹介予定派遣で正社員を目指す場合は、書類選考や面接の対策を行うとともに、限られた派遣期間のなかでスキルを磨くことが重要です。
方法②無期雇用派遣を選ぶ
無期雇用派遣とは、派遣会社と期間の定めのない雇用契約を結び、派遣会社に所属する社員としてさまざまな派遣先企業で働く仕組みです。
一般的な派遣では、派遣期間が終わると派遣会社との雇用関係もいったん終了します。
そのため、次の派遣先企業が決まるまでのあいだは収入が途切れてしまいます。
一方、無期雇用派遣は派遣先での勤務が終わったあとも派遣会社との雇用関係が継続するので、安定した収入を得られるのが特徴です。
派遣先企業が決まっていない期間は、派遣会社の業務に従事したり、待機期間として過ごしたりすることになります。
厳密には正社員というわけではありませんが、こうして派遣会社に所属しながら“正社員のように”働ける点は、無期雇用派遣ならではのメリットです。
派遣先企業から引き抜きを提案された際の確認事項
ここからは、派遣先企業から引き抜きを提案された際に、確認しておきたい事項について解説します。
以下の確認事項は口頭で話を聞くだけでなく、条件や内容を書面で確認し、誤解やトラブルを防ぐことが大切です。
【派遣先企業から引き抜きを提案された際の確認事項】
- ①雇用形態
- ②業務内容
- ③待遇
①雇用形態
派遣先企業から直接雇用の提案を受けた際は、まず雇用形態を確認しましょう。
“直接雇用=正社員”と考える方も多いかもしれませんが、実際には契約社員としての雇用でスタートする場合もあります。
企業側が正社員と契約社員を区別している以上、給与や福利厚生に差が出る可能性もゼロではありません。
そのため、自分がどの雇用形態で働くのかを事前に確かめておくことが重要です。
②業務内容
派遣社員から直接雇用に切り替える際は、今後携わることになる業務内容も事前に把握しておきたいところです。
「今までと同じ仕事が続く」と思い込んでいると、新しい業務に急に対応しなければならなくなったときに戸惑ってしまうかもしれません。
どのような業務を担当するのかを確認しておくことで、入社後の混乱を防げます。
また企業側が経験や能力を評価して直接雇用を打診している場合、「責任のある役割や新しいポジションを任せたい」と考えている可能性があります。
入社後に「思っていた仕事じゃない……」と感じないよう、業務内容だけでなく、担当部署や担当するポジションもしっかりと押さえておきましょう。
③待遇
待遇面も、派遣先企業から直接雇用の提案を受けた際に、確認しておくべき事項として挙げられます。
本記事で「直接雇用に切り替えると待遇が良くなる可能性がある」と説明しましたが、これはあくまでも可能性であり、必ずしも良くなるとは限りません。
直接雇用後に派遣先企業の給与体系や福利厚生に切り替わることで、給与や勤務条件がかえって不利になるケースもあります。
「派遣社員より条件が良くなる」と安易に想定するのではなく、具体的な待遇を事前に確認しておくことで入社後も安心して働けます。
派遣先企業から引き抜きの話を持ちかけられた際の注意点
派遣先企業から引き抜きの提案があったときの注意点も、あわせてご確認ください。
【派遣先企業から引き抜きの話を持ちかけられた際の注意点】
- 注意点①自分だけで話を進めない
- 注意点②納得していない状態で承諾しない
- 注意点③直接雇用された企業を離職後はすぐに派遣社員として働けない
注意点①自分だけで話を進めない
派遣先企業から引き抜きの話を受けたときは、自分だけで今後の方向性を決めず、まずは派遣会社に相談することが大切です。
引き抜きに応じるかどうかを判断するときは、給与や業務内容、待遇、企業の将来性など、さまざまな観点を考慮しなければなりません。
派遣会社に相談すれば、自分だけでは知りえなかった情報を入手できたり、条件面の交渉についてアドバイスをもらったりできるでしょう。
こうして冷静に情報を整理すれば、次に進むべき方向をしっかりと見極められます。
注意点②納得していない状態で承諾しない
派遣先企業が提示した条件に納得できない場合は、承諾を見送る判断も必要です。
納得できないまま直接雇用契約を結ぶと、長期的に安心して働きつづけることが難しくなってしまいます。
また、はっきりと断らなければ、派遣先企業に過剰な期待を持たせかねないため、自分の意思は明確に伝えることが重要です。
注意点③直接雇用された企業を離職後はすぐに派遣社員として働けない
直接雇用後に退職すると、すぐに同じ企業で派遣社員として働くことができない点にも注意が必要です。
これは、労働者派遣法で定められている“離職後1年以内の労働者派遣禁止”のルールによるものです。
たとえば、派遣社員として働いていたA社で正社員として直接雇用されるも、働き方が合わずに退職したと想定します。
その後「やっぱり派遣社員としてA社で働きたい!」と思っても、退職から1年が経過するまでは、派遣会社経由でA社に戻ることはできません。
直接雇用へ切り替える場合は、こうしたルールも理解したうえで慎重に判断する必要があります。
参照元:e-Gov法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第四十条の九第一項」
派遣先企業による引き抜きは、派遣期間満了後であれば違法ではない
派遣先企業による派遣社員の引き抜きは、派遣期間満了後であれば法律上の問題はありません。
派遣社員はこの提案を承諾し、直接雇用に切り替えることで、雇用や収入の安定、キャリアアップなどのメリットを享受できます。
一方で、柔軟な働き方ができなくなったり仕事の責任が重くなったりといったデメリットも存在するので、派遣会社に相談のうえ慎重に判断しましょう。
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